病気のお話 肝・胆道系疾患
監修
山梨県特別顧問 小俣政男先生
はじめに
「沈黙の臓器、肝臓」とよく称されます。確かに肝臓はがまん強く、黙々と働き続ける臓器です。しかしちょっと待ってください。本当に何も語りかけてはいないのでしょうか。たとえば健康診断で受け取る血液検査の結果。一見数字が無表情に並んでいるだけのようですが、実は肝臓の健康状態も雄弁にもの語っているのです。ひょっとしたら「早く気がついて!」という信号を発しているのかもしれません。
肝臓の構造と働き
代謝
食べ物から取った栄養素をからだで使える形につくり変えたり、貯蔵、供給したりします。
解毒
からだにとって有害な物質を分解して無毒化します。
胆汁(胆汁酸)の生成
コレステロールから胆汁の主成分である胆汁酸を生成して、胆汁をつくっています。胆汁は腸内に流れ出て、胆汁酸は脂肪の消化吸収を助けます。
ビリルビンの代謝・排泄
古くなった赤血球からつくられるビリルビンを胆汁に排泄します。
肝臓機能と血液検査
健康診断で受け取る血液検査の結果には、一見数字が無表情に並んでいるだけのようですが、実は肝臓の健康状態を把握することができます。項目の見方と基準となる数字を参考にしてください。
エーエルティー(ジーピーティー) エーエスティー(ジーオーティー) ALT(GPT) AST(GOT)
ALT(GPT)、AST(GOT)とは
ALTとASTは細胞内でつくられる酵素で、ALTは肝細胞、ASTは肝細胞もしくは心臓などの臓器に多く存在しています。
体内でのアミノ酸代謝やエネルギー代謝の過程で重要な働きをします。
- Dr.のチェックポイント!
慢性肝炎、肝硬変ではこの値が高いほど病気が重いという誤解がある。慢性肝臓病の重さはむしろ、肝の線維化の程度により決まる。
基準値を超えたら・・・
ALT、ASTは、何らかの異常で肝細胞が破壊されることにより、はじめて血液中に漏れ出します。その数値が高いということは、それだけ肝臓が障害を受けているという状態を反映しています。
- 代表的な肝疾患
ウイルス性肝炎、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪性肝疾患、肝硬変
ガンマ・ジーティーピー γ-GTP
γ-GTPとは?
肝臓や腎臓などでつくられる酵素で、肝臓では通常肝細胞や胆管細胞に存在し、胆汁中にも存在しています。
たんぱく質を分解・合成する働きをします。なお、アルコールを摂取したときには血液中にγ-GTPが出ることがあります。
- Dr.のチェックポイント!
この値によって、ときにお酒の量が分かる。
基準値を超えたら・・・
アルコールの飲みすぎやある種のお薬などにより、γ-GTPがたくさん作られるようになります。そのため、γ-GTPが血液中に漏れ出し、数値が上がります。
胆汁うっ滞*や胆管細胞の破壊が生じると、細胞内や胆汁に存在するγ-GTPが血液中に漏れ出し、数値が上がります。
*何らかの異常で肝機能が低下し、肝臓内の胆汁の流れが悪くなること。また、胆管に胆石が詰まった場合にもうっ滞が生じることがある。
- 代表的な肝疾患
アルコール性肝障害、胆汁うっ滞、原発性胆汁性肝硬変
- その他の疾患
胆石、胆道閉塞など
エーエルピー ALP(アルカリフォスファターゼ)
ALPとは?
肝臓をはじめ、心臓、腎臓などのからだのさまざまな細胞でつくられる酵素で、肝臓では通常毛細胆管に多く存在し、胆汁中にも存在しています。
乳製品、レバーなどに多く含まれる物質(リン酸化合物)を分解する働きをします。
- Dr.のチェックポイント!
この検査は、ときに極めてまれな疾患である原発性胆汁性肝硬変を見つける手がかりになる。
基準値を超えたら・・・
肝障害により、胆汁うっ滞が生じると、胆汁中に存在するALPが血液中に漏れ出し、数値が上がります。
またALPは骨でもつくられているため、成長期の子どもや骨の病気などでも数値が上がります。
- 代表的な肝疾患
胆汁うっ滞、薬物性肝障害、原発性胆汁性肝硬変
- その他の疾患
胆石、胆道閉塞、骨の病気など
総ビリルビン[非抱合型(間接)・抱合*型(直接)ビリルビン]
総ビリルビン[非抱合型(間接)・抱合*型(直接)ビリルビン]とは?
ビリルビンとは、古くなった赤血球が破壊されるときに、生成される黄色い色素です。ビリルビンは血液で肝臓に運ばれ、胆汁中に捨てられます。
肝臓で処理される前のビリルビンを「非抱合型ビリルビン」、処理された後のビリルビンを「抱合型ビリルビン」といいます。合わせて総ビリルビンと呼びます。通常、総ビリルビンは血液中にごくわずかしか存在していません。
*抱合:ある物質をつけて水に溶けやすくする反応
- Dr.のチェックポイント!
慢性肝炎、初期の肝硬変ではあまり上昇しないが、肝硬変が進展、非代償化(肝不全の進行)してくると、2から3、4と上昇していく。
基準値を超えたら・・・
抱合型(直接)ビリルビン
肝障害により胆汁うっ滞が生じると、胆汁中の抱合型ビリルビンが血液中に漏れ出し、数値が上がります。
非抱合型(間接)ビリルビン
通常より過剰に赤血球が破壊されると数値が上がります。また、生まれつき非抱合型ビリルビンを抱合する酵素が少ない人は数値が上がります。
- 代表的な肝疾患
胆汁うっ滞、肝硬変
- その他の疾患
胆石、胆道閉塞、溶血性貧血、ジルベール症候群(体質性黄疸の一種)など
総たんぱく、アルブミン
総たんぱく、アルブミンとは?
総たんぱくとは、血液中に含まれるたんぱくの総称です。
アルブミンとは、総たんぱくの約67%を占めるたんぱく質で、肝細胞でのみつくられ、血液中に存在しています。血液中のさまざまな物質を運んだり、体液の濃度を調整する働きをします。
- Dr.のチェックポイント!
慢性肝炎、初期の肝硬変ではあまり変動しないが、肝硬変が進むと減少し、アルブミンも3.5→3.0、さらには2.0台になる。
基準値より下がったら・・・
何らかの異常で肝機能が低下すると、肝臓のアルブミンをつくる能力が低下するため、血液中の数値が下がります。
- 代表的な肝疾患
肝がん、肝硬変、劇症肝炎
- その他の疾患
ネフローゼ症候群
(尿中にアルブミンが漏れ出すため、血液中のアルブミンが少なくなる疾患)
血小板
血小板とは?
血小板とは、骨でつくられる血液の成分で血液中に存在し、出血したときに血を止める働きをします。
血小板をつくるために、肝臓も大切な役割を担っています。
基準値より下がったら・・・
肝臓の障害が疑われます。肝炎や肝硬変などで肝臓の線維化*が進むと、血小板の産生量が減ったり、また肝臓の血流が悪くなると血小板が破壊される量が増え、数値が下がります。
また血小板は血液の病気でも数値が下がります。
*線維化:線維物質が増えて細胞が硬く変化すること。
- 代表的な肝疾患
ウイルス性肝炎、肝がん、肝硬変
- Dr.のチェックポイント!
血液疾患を想定しがちだが、実は最も強力な肝の線維化の指標。
肝生検検査は容易に出来ないため肝線維化の進展を血小板を用いて予測する。ことに、慢性肝炎の軽いF1からF2→F3と進行する様子が“右肩下がりの血小板”として表現され、肝硬変化、肝がんへ近づいていることがわかる。
C型慢性肝炎における血小板数と肝線維化の関係
C型慢性肝炎では、肝臓の線維化が進むほど肝がんを発症しやすいことが知られています。
血小板の数は、肝臓の線維化の程度と関連していますので、その数値から肝がんの危険性をある程度予測することが可能です。
※慢性肝炎の肝臓の線維化は、程度によりF1~F4に分類されます。
F:Fibrosis(線維化)
エルディーエイチ LDH(乳酸脱水素酵素)
LDHとは?
肝臓をはじめ、心臓、腎臓などのからだのさまざまな細胞でつくられる酵素で、肝臓では通常肝細胞に多く存在し、糖質をエネルギーに変える働きをしています。
異常値になる理由
LDHは、何らかの異常で肝細胞が破壊されることにより、はじめて血液中に漏れ出します。
その数値が高いということは、それだけ肝臓が障害を受けているという状態を反映しています。
- Dr.のチェックポイント!
現在はあまり使われていない。ただし、進行した癌、ことに気づかれずにいた転移性肝癌などで上昇することがある。
- 代表的な肝疾患
ウイルス性肝炎、アルコール性肝障害、肝硬変
コリンエステラーゼ(ChE)
コリンエステラーゼとは?
肝細胞でのみつくられる酵素で、血液中へ放出され、からだ中に存在しています。
神経伝達物質の一種を分解する働きをします。
異常値になる理由
低値の場合
何らかの異常で肝機能が低下すると、肝臓のコリンエステラーゼをつくる能力が低下するため、数値が下がります。
高値の場合
脂質代謝にも関連するため、栄養過多による脂肪肝などでは多くつくられ、数値が上がります。
- Dr.のチェックポイント!
あまり使われていないが、脂肪肝で上昇し、末期の肝不全で減少する。
- 代表的な肝疾患
低値の場合:劇症肝炎、肝硬変
高値の場合:脂肪肝
HBs抗原*1、HBs抗体*2、HBe抗原、HBe抗体
HBs抗原、HBs抗体とは?
B型肝炎ウイルスの感染状況を示します。
HBs抗原(+)
現在、B型肝炎ウイルスに感染していることを示します。
HBs抗体(+)
過去、B型肝炎ウイルスに感染していたことを示します。
HBe抗原、HBe抗体とは?
HBe抗原(+)
B型肝炎ウイルスに感染しており、感染性が強いことを示します。
HBe抗体(+)
B型肝炎ウイルスに感染しているが、感染性が弱いことを示します。
*1:細菌やウイルスなどからだにとって異質の物質
*2:抗原を無毒化して排除する物質
HCV抗体
HCV抗体とは?
C型肝炎ウイルスの感染状況を示します。
HCV抗体(+)
C型肝炎ウイルスに現在感染している、あるいは過去に感染していたことを示します。
現在感染しているかどうかを正確に知るためには、直接ウイルスの量を調べます。
- Dr.のチェックポイント!
ただし、AST・ALTが異常値を示すときは、ほとんどの場合、現在C型肝炎ウイルスに感染している。
肝機能専門情報サイト「よくわかる!肝機能ナビ」は、肝疾患の症状、診断、治療などを田辺三菱製薬株式会社が紹介するWEBサイトです。
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