病気のお話 閉塞性動脈硬化症
監修
つくば血管センター センター長 岩井武尚先生
閉塞性動脈硬化症の基礎知識
閉塞性動脈硬化症とは
動脈硬化は、全身の血管に起こり、様々な病気の原因となります。脳へ血液を届けている頸動脈や脳動脈の動脈硬化により「脳梗塞」が起こります。また、心臓の冠動脈の動脈硬化により「狭心症」や「心筋梗塞」、胸部と腹部をつなぐ大動脈分枝の動脈硬化では「腎血管性高血圧症」などが起こります。そして、足への動脈に動脈硬化が進んで血流障害を起こす病気が「閉塞性動脈硬化症」なのです。
血管の壁は「内膜・中膜・外膜」の3層からできています。
血管の壁のうち、内膜にコレステロールなどがたまり(アテローム)、血液の流れる内腔が狭くなっていきます。さらに、血管の弾力もなくなり、血液の流れが悪くなります。これが「動脈硬化」です。
動脈硬化が進行すると、狭くなった内腔に血液中の血小板が付着し、血栓(血の塊)ができ、最終的には血管が完全に詰まってしまいます。
閉塞性動脈硬化症の症状
Ⅰ度:無症状
最も初期には症状はありません。連続した運動に不安を感じるようになったら要注意です。また、しびれの強い方は、腰や腰からの神経に問題があります。
Ⅱ度:間歇性跛行
動脈硬化が進むと「間歇性跛行」という症状が現れます。間歇性跛行とは「一定の距離を歩くと、足が痛くなり歩けなくなるが、しばらく休むと、また歩けるようになる」という症状です。
Ⅲ度:安静時疼痛
さらに動脈硬化が進行すると、じっとしていても足が痛むようになります。安静時疼痛という症状です。ジーンとした痛みのために夜眠れないなど、生活の質(QOL)が低下してしまいます。
Ⅳ度:潰瘍・壊疽
最も進行した患者さんでは、動脈硬化により血液が届きにくくなった足先に、治りにくいジュクジュクした傷(潰瘍)ができます。足先への血流が全く流れなくなって、足先が腐ってしまう(壊疽)こともあり、最悪の場合、足を切断しなければならないこともあります。
閉塞性動脈硬化症の診断
問診
気になる症状などについて確認します。
友人・家族などと一緒のスピードで歩けない、ふくらはぎなどにくる痛みがあるなど、気になる症状が、いつから・どのような時に出るのかや、既往歴・家族歴などについて確認します。
視診
皮膚の色を見ることで、血流障害を確認します。
仰向けに寝た状態で、両足を上げ下げしていただき、左右の足の色の変化を調べる検査をします。(挙上・下垂試験)動脈硬化で血液が流れにくくなっている足は、上げると蒼白になり、下げてしばらくすると赤みが増します。
触診
足の脈拍を調べることで、動脈硬化を確認します。
足の付け根、ひざの後ろ、足の甲、くるぶしの後ろなどの動脈の脈拍の強弱を調べます。どの部分の脈拍が弱くなったかで、動脈硬化を起こした部分の見当をつけることができるのです。
ABPI
腕と足の血圧を比べ、足の血流低下の程度を確認します。
足の血圧と腕の血圧の比をABP(I Ankle Brachial PressureIndex、またはABI)と言います。通常、ABPIは、1以上ですが、足の血管が動脈硬化により、狭くなったり詰まったりすると、その先の血流が減少するため、足の血圧が低下し、ABPIも低下します。ABPIが0.9以下の場合、足の血流が悪くなっていると考えられます。最近、ABPIを簡単に測定できる機器が開発され、閉塞性動脈硬化症の診断に活用されています。
血管造影
血管に造影剤を注射してレントゲン撮影し、病変部を確認します。
血管に造影剤を注射し、レントゲン撮影します。血管のどの部分がどのくらい狭くなったり詰まったりしているのかなどを、正確に確認することができます。
その他
その他の検査として、レーザーを用いて血流を測定するレーザードプラや、皮膚の温度を測定するサーモグラフィーなどがあります。
動脈硬化は全身の血管に起きるため、足に動脈硬化がある場合、他の部分にも動脈硬化を起こしている可能性があります。また、糖尿病や高血圧、高脂血症などの合併症についても検査することがあります。
閉塞性動脈硬化症の治療法
運動療法
運動療法の基本は、歩くことです。歩くことにより、足の血行が良くなるだけでなく、天然のバイパス路である側副血行路が発達することも知られています。
薬物療法
閉塞性動脈硬化症の治療薬には、次のような薬剤があります。抗血小板薬と呼ばれる薬剤を中心に、症状に応じて、いくつかの種類を使い分けます。
抗血栓薬
血栓(血液のかたまり)をつくらない様にし、血管が詰まるのを防ぎます。
- 抗血小板薬
血栓形成や動脈硬化の進展に重要な働きをする血小板が活発に活動するのを防ぎます。
- 抗凝固薬
血栓が出来たり、大きくなるのを防ぎます。
- 血栓溶解薬
できてしまった血栓を溶かします。
血管拡張薬
血管を広げ、血液が流れやすいようにします。
血管内治療(経皮的血行再建術)
ふとももの付け根などから足の血管の中に細長い管を入れ、管の先につけた風船(バルーン)で、血管の動脈硬化により狭くなった部分を拡げる治療です。
外科療法(バイパス術)
血管の詰まってしまった部分を飛び越えるように、人工血管や自分の静脈を使って新しい血液の通り道(バイパス)をつくる手術です。
日常生活のポイント
禁煙
タバコに含まれるニコチンは、血管を収縮させて血流を減少させ、動脈硬化を悪化させてしまいます。タバコは百害あって一利なしです。治療を始める前にまず禁煙しましょう。
食事
脂肪分や総エネルギー量を抑えるために、脂肪の多い肉類を避け、腹八分目を心がけバランスの良い食事をとりましょう。特に、高血圧・糖尿病・高脂血症を合併している人は、食事に注意が必要です。
運動
運動をすると血行が良くなります。医師と相談し、無理のないペースで運動する習慣をつけましょう。
ストレス解消
ストレスにより動脈硬化が悪化します。充分な睡眠と休養をとって、ストレスをためないようにしましょう。
足のケア
- 足を清潔に保つ
足や指の間も石鹸(ソープ)でていねいに洗い、細菌などの感染症を防ぎましょう。
- 足の保温
木綿の靴下をはき、足を暖かく保つようにしましょう。入浴も効果的ですが、やけどに十分ご注意下さい。
- 足のケガに注意
小さなキズが潰瘍になることもあります。靴下をはいて足を保護し、爪を切るときには深爪をしないように注意しましょう。
- 自分の足にあった靴をはきましょう
足をしめつけない、歩きやすい靴を選びましょう。
足に合う靴ってどんな靴?
靴を選ぶときは、次の点をチェックしてみましょう。
- 1かかとが合っている
- 2甲にすきまがない
- 3足幅(親指の付け根から小指の付け根まで)が合っている
- 4土踏まずがフィットしている
- 5足先に1~1.5cmのゆとりがある